「公序に反し無効」って結局どういう意味?東朋学園事件で学ぶ、法律系でない受験生のための公序良俗入門

「公序に反し無効」って結局どういう意味?

〜東朋学園事件で学ぶ、法律系でない受験生のための公序良俗入門〜

こんにちは。みやびです。

社労士の勉強をしていると、判例を読んでいるときに必ずと言っていいほど出てくる言葉があります。

「公序良俗に反し、無効」

なんとなく「悪いことだから無効なんだな」と読み飛ばしていませんか?

私自身、法律系の大学を出ているわけではないので、この言葉を最初に見たとき「公序良俗ってよく聞くけど、正確にはどういう意味なの?」とずっとモヤモヤしていました。社労士受験生の中にも、同じように感じている方は多いのではないでしょうか。

今回は、令和7年・平成22年の両方に出題された東朋学園事件を題材に、「公序に反し」という言葉の意味を根本から理解することを目指します。


① まず「公序良俗」を分解する

「公序良俗」は 「公序」+「良俗」 の2つの言葉からできています。

言葉 意味
公序公の秩序=社会の基本的な秩序・仕組み
良俗善良な風俗=社会一般の道徳・倫理観

法律の条文では、民法第90条がこれを定めています。

民法第90条(公序良俗)
「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」

日常語で言い換えると、「社会の秩序や道徳に反するような契約・約束は、たとえ当事者が合意していても法律的に無効にする」というルールです。

② 「法律違反ではないのに無効」という不思議

ここが多くの受験生が混乱するポイントです。普通に考えると「無効になるなら違法なんじゃないか」と思いますよね。

でも、公序良俗規定は「一般条項」と呼ばれる抽象的なルールであり、「○○してはいけない」という具体的な禁止規定とは性質が異なります。

つまり、個別の法律には違反していないけれど、「社会全体として見ると到底許容できない」と判断される行為を無効にするための”最後の砦”的なルールなのです。

【具体例で考える】
「1,000万円を貸すから、返せなければ一生タダ働きしろ」という契約。これを禁止する「タダ働き禁止法」という法律は存在しませんが、人間の尊厳を踏みにじる内容なので公序良俗違反として無効になります。

また、退職後10年間・全国・全業種にわたる競業禁止契約も、労働者の職業選択の自由を過度に制限するとして公序良俗に反するとされることがあります。

社会的に見て「これはいくら何でもまずい」というレベルのものに対して、法律は明文規定がなくても公序良俗という概念で無効にできる仕組みになっているのです。

③ 「公序」と「公序良俗」—東朋学園事件で使われたのはどちら?

ここが試験的に最も重要なポイントです。

東朋学園事件の最高裁判決文は 「公序良俗に反し無効」ではなく、「公序に反し無効」 という表現を使っています。

【判決文の核心部分】
「上記権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等が上記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り、公序に反し無効となると解するのが相当である。」

これは偶然ではありません。産後休業や育児時間の取得を困難にする規定は、道徳・倫理(良俗)の問題というよりも、社会が法律によって守ろうとした秩序(公序)を壊すものとして位置づけられているからです。


④ 東朋学園事件の論理の流れを「公序」で読み解く

事案の概要

学校法人Yに勤務する事務職員Xは、8週間の産後休暇と育児のための勤務時間短縮(1日1時間15分)を取得しました。ところが、Yの就業規則には「賞与算定期間の90%以上出勤した者に支給する」という90%条項があり、産後休業等が欠勤扱いとされた結果、2回分の賞与が支払われませんでした。

Xは「産後休業等を欠勤算入するのは労基法・育児介護休業法の趣旨に反する」として賞与の支払いを求めて提訴しました(最高裁平成15年12月4日判決)。

最高裁の判断:3ステップで理解する

ステップ 内容
ステップ1
90%条項そのものは適法
出勤率を賞与支給の条件とすることは、出勤率の向上という経営上の合理的な理由があるため、規定それ自体は適法
ステップ2
しかし「使い方」が問題
産後休業・育児時間は法律(労基法・育児介護休業法)が認めた権利。その行使を「欠勤」と同じ扱いにして不利益を与えることは、法律が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる
ステップ3
よって「公序に反し無効」
法律が社会秩序として守ろうとした「働く女性・子育てする労働者の権利」を骨抜きにするような使われ方をする場合は、公序(社会の基本的秩序)に反するとして無効

【実務ポイント】 「適法だが無効」という一見矛盾した結論が成立するのがこの判例の特徴です。「法律の条文に違反していないか」と「公序に反していないか」は、別の問いとして判断されます。就業規則の運用においても、条文に沿っているだけでなく、法律が守ろうとした趣旨を骨抜きにしていないかを常に確認することが社労士の重要な役割です。


⑤ 令和7年と平成22年—同じ判例で異なる空欄

東朋学園事件は令和7年度・平成22年度の選択式(労働基準法)に出題されています。注目すべきは抜かれた言葉がまったく異なる点です。

年度 空欄になった言葉 問われた視点
平成22年 公序良俗に反する 無効の根拠は何か(民法90条の公序良俗)
令和7年 上記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる 無効となる条件・要件の部分

平成22年は「なぜ無効か(根拠)」を問い、令和7年は「どんな場合に無効か(要件)」を問いました。同じ判決文なのに、問題の切り口がまったく異なるのです。

【受験対策の視点】 同じ判例が繰り返し出題されるのは、それだけ試験委員が重要視しているからです。「一度出たから次は出ない」ではなく、「重要判例は形を変えて何度でも出題される」と考えてください。フレーズだけでなく判決の論理の流れごと理解しておくことが、どこが空欄になっても対応できる最強の対策です。


⑥「公序」が登場する他の重要判例

「公序(良俗)に反し無効」という結論は、労働法の分野で繰り返し登場します。

判例 公序違反とされた内容
日産自動車女子定年制事件
(最判昭和56年)
女性の定年年齢を男性より低く設定。性差別として公序良俗に反し無効
東朋学園事件
(最判平成15年)
産後休業・育児時間を欠勤扱いにする90%条項の適用。法の趣旨を失わせるとして公序に反し無効
競業避止義務(過度なもの) 退職後の就業制限が期間・地域・職種の点で過大な場合、職業選択の自由を侵害し公序良俗に反する

これらの判例に共通する論理構造は次の通りです。

公序(良俗)違反の論理構造

① 法律の条文に直接違反しているわけではない

② しかし、法律が守ろうとした価値・秩序を実質的に壊している

③ だから「公序(良俗)に反し無効」

この流れを頭に入れておくと、初めて見る判例でも「ああ、これが公序に反すると言いたいんだな」と読めるようになります。


まとめ|この2フレーズを確実に押さえる

東朋学園事件については、以下の2つのフレーズを一字一句正確に押さえてください。

📌 東朋学園事件の必須フレーズ

【要件】「上記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り」
→ 令和7年の出題箇所。どんな場合に無効か(条件)を問う

【根拠】公序に反し無効」(「公序良俗に反し」ではなく「公序に反し」)
→ 平成22年の出題箇所。なぜ無効か(根拠)を問う

おわりに

「公序に反し無効」という言葉は、法律の世界では「明文の規定に違反していなくても、社会が守ろうとした秩序を壊すなら認めない」という、法の精神の根幹にある考え方です。

法律系の学校を出ていない私たちにとって、こういった抽象的な言葉こそ「なんとなく」で済ませがちです。でも、その意味を一度腑に落として理解すると、判例を読む際の理解度が格段に変わります。

同じ東朋学園事件が2回出題され、抜かれた場所が違ったこと。それは「1つの条文として丸暗記するのではなく、論理の流れとキーワードの両方を理解しているかを問いたい」という試験委員のメッセージではないかと私は思っています。

【参考資料】 最高裁判所判決 平成15年12月4日(東朋学園事件)/ 民法第90条(公序良俗)/ 労働基準法第65条(産前産後休業)/ 育児介護休業法第10条

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